1.各国商標独立の原則
この独立の原則は我々にとって、実務上非常に難しい問題です。例えば、企業を代表するハウスブランド、また、多数国へ輸出する商品ブランドには政策上統一したブランドを付して世界中に輸出するのがベストであることは明らかであります。なお、本稿では商標をブランドと称します。
すなわち、A国では甲ブランドを、B国では甲ブランドを使用できず、乙ブランドしか使用できないとすれば、ブランド信用力、浸透力は希釈化され、ブランド本来有するグッドウイルを喪失することとなり、当然ながらそのような事態は避けたいところであります。
しかし、現実はこの商標独立の原則によりA国では甲ブランドがとれたにも関わらず、B国では甲ブランドがとれない、という事態の発生することがあります。
2.弊所での例
(1)我国で「○×SOAP」なる標章について、第3類せっけんを指定商品として商標出願したところ、我国では何等問題なく商標権を取得できました。
その後その商品を外国、例えば台湾、香港、中国、マカオ及び韓国等へ輸出するようになったため、それらの国に外国商標出願をすることになりました。
その外国商標出願のうち、韓国を除いて我国、台湾、香港、中国、マカオは全て問題なく商標権を取得することができましたが、韓国については独立の原則により商標権を取得することができませんでした。
その理由は、本願商標中の「○×」なる標章には「超自然的な力」を有する意味がある、というものです。
弊所としては予想だにしなかったアクションであったため、研究社発行の「新英和大辞典」で確認したところ、この語に指摘されたような意味を有することが認められました。
しかし、この語はポリネシア、ハワイ原住民の間で使用されている特殊な語であることが判明しましたが、この語が上記のような意味を有する語として我国を含めて普通に使用されているとは事実は全くありません。
すなわち、本願商標の「○×」なる標章の意味は単に英語辞書上に「超自然的な力」とのみ記載されているだけで、韓国特許庁はそのような意味を有する、との理由をもって、商品の品質を表すものであるから顕著性を有しない、と判断したもので、その標章の使用関係についてはまったく言及されておりません。
そこで弊所としては、現地事務所とも協議した結果、現地事務所はこのようなアクションを受けた場合、意見書のみによってこれを覆すことは困難で、我国の商標法第3条第2項に規定するような周知性を立証しなければ登録性はないだろう、とのアドバイスを受けました。
我々弁理士にとって周知性の立証は困難な仕事であって、商標法第3条第2項の適用を受けるためには相当の主張と証拠が要求され、その費用及びコストは高くなることは避けられず、その旨をクライアントに報告し、相談した結果した結果、韓国内における周知性の立証は困難であると判断せざるを得ず、止むを得ず、本願商標の韓国での商標権取得を諦めた次第であります。
(2)我国で「○○&××」なる標章について、第3類家庭用帯電防止剤、家庭用脱脂剤、さび除去剤、染み抜きベンジン、洗濯用柔軟剤、洗濯用漂白剤、かつら装着用接着剤、つけまつ毛用接着剤、洗濯用でん粉のり、洗濯用ふのり、せっけん類、歯みがき、化粧品、植物性天然香料、動物性天然香料、合成香料、調合香料、精油からなる食品香料、薫料を指定商品として出願(以下「本願商標」という)したところ、我国では何等問題なく商標権を取得できました。
その後本願商標の指定商品のうち、「せっけん類」について韓国、台湾、香港、中国等に輸出するようになっため、それらの国に外国商標出願を行いました。
その外国商標出願のうち、台湾、中国については何等問題なく商標権を取得できましたが、韓国及び香港については商標権を取得することができませんでした。
先ず韓国では、本願商標を構成する「○○」は「木の葉」という意味であり、「××」は「植物」という意味の複数形であって、これを指定商品に使用する場合、商品の品質、原材料を普通に使用する方法で表示したもので、韓国商標法第6条第1項第3号に該当し商標登録を受けることができない、というものです。
次に香港の場合、「○○」が葉を意味し、「××」が植物エキスを意味するものであるから、本願商標を指定商品に使用した場合、葉や植物エキスを含んだ商品を暗示するものであるから、商標登録を受けることができない、というものです。
すなわち、韓国、香港特許庁の判断では、本願商標を構成する「○○」は葉を、「××」は植物の意味を含んでいるものであるから、本願商標を指定商品に使用した場合、単に商品の品質、原材料を表すもので、顕著性がなく商標登録を受けることができない、というものです。
このような、アクションを受けた場合、両国とも我国の商標法第3条第2項に規定するような例外規定に基づいて反論すれば商標登録を受けることが可能ではありますが、そのためには韓国内、香港内における周知性を立証しなければならず、その場合の費用対効果を考慮してクライアントと相談の上両国での商標権の取得を諦めた次第であります。
以上のような例はその一部ですが、各国商標権独立の原則に基づき外国商標出願した場合、当該国の審査は各国独立に審査されますので、我国の登録例があったとしてもそれは各国審査を拘束するものではありません。
私ども弁理士にとって、出願商標の標章が当該国において「品質表示」あるいは「原材料表示」に該当するや、否やは極めて難しい判断で、正確な判断を希望するならば現地事務所の見解を求めざるを得ないと思います。しかし、その判断を現地事務所に求めても判断結果は△の場合がありますので、ご留意下さい。
なお、特許独立の原則も商標独立の原則と同様、各国独立に審査されます。 |