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中国商標事情5

中国商標事情5

 
 

「中国における商標の冒認出願問題:具体的な対策について」

 弊所サイト内の中国商標事情4にても触れておりますように、近年、中国においては、商標権の冒認出願(抜け駆け登録)が問題となっております。
  これは、例えば、日本企業や地方自治体のブランドが、知らぬ間に中国において第三者により出願・登録されてしまい、その日本企業や地方自治体が中国に進出・ビジネス展開をしようとした際に、第三者の商 標権(冒認商標)が障害となるような問題のことです。
  本稿では、このような問題に対する対応策などをご紹介いたします。

<問題になる前の事前策>

 もっとも効果的なのは、中国国内において商標出願・登録を行い、早期の権利化を図ることです。
 弊所サイト内の中国商標事情2及び中国商標事情3において述べておりますように、中国では日本と同様「先願主義」を採用しておりますので、第三者よりも先に日本企業が商標出願をすることが、冒認出願を防ぐのに有効です。
 なお、冒認商標が一旦権利として認められてしまうと、解決までに多大な人(労力)的・時間的・金銭的なコストを要し、さらに、それだけのコストを掛けたからと言っても、最終的に日本企業がその商標権を取り戻せる保証はどこにもありません。
 そのため、中国への進出・ビジネス展開においては、早急に商標出願して権利化を図ることが重要であり、強くお勧めするものです。


<問題になってからの事後策(法的対抗措置)>

 A.冒認出願が登録される前、B.登録された後の対策をそれぞれご紹介いたします。

A.冒認出願が公告されてから商標登録される前の法的対抗措置

 公告がなされてから3ヶ月間、以下を根拠とする異議を申し立てることができます。

  1. 公知な外国地名であること(中国商標法第10条第2項)
  2. 地理的表示であること(中国商標法第16条)
  3. 先に使用している一定の影響力を有する商標を不正な手段により登録したこと(中国商標法第31条)

B.冒認出願が商標登録された後の法的対抗措置

 中国商標法第41条第2項は原則5年間、また、下記4.の場合も5年間の時効を定めておりますので、ご留意ください。

  1. 公知な外国地名であること(中国商標法第10条第2項,第41条第1項)
  2. 地理的表示であること(中国商標法第16条,第41条第2項)
  3. 先に使用している一定の影響力を有する商標を不正な手段により登録したこと
    (中国商標法第31条,第41条第2項)
  4. その他の不正な手段による登録(中国商標法第41条第1項)
  5. 登録後3年間不使用であること(中国商標法第44条第4号)

 なお、「不正の手段(悪意)」とは、「悪意」が主観的要素であるため立証は困難ですが、中国「商標審理基準」によれば、冒認出願者の「悪意」の有無を判定するにあたって以下のような要素が勘案されており、これらを立証していけば、冒認出願者の「悪意」が認定される可能性が比較的高いと思われます。

a)冒認出願者と先使用者(貴社)との間に、過去に取引又は提携関係があった。
b)冒認出願者と先使用者(貴社)とが、同一地域で商品/サービスを展開している。
c)冒認出願者と先使用者(貴社)との間に、過去に争いが有り、先使用者(貴社)の商標を知っていた。
d)冒認出願者と先使用者(貴社)との間に、過去に人員の行き来があった。
e)冒認出願者が先使用者(貴社)に、高額の譲渡金、ライセンス料又は権利侵害の賠償金等を要求する行為があった。
f)先使用者(貴社)の商標に、比較的強い独創性がある。
g)「悪意」の有無を認定できるその他の事情。


<商標の買い取り要求などへの対応>

  冒認出願者から「×億円を支払えば私の商標を貴社に譲渡する」などの連絡が通知された場合、どのように対応すべきでしょうか。
  そもそも冒認出願者の目的は「少しでも多くの金銭を外国企業から得る」ことにありますので、真摯な交渉は期待できません。
  そのため、具体的状況に応じて検討する必要はあるものの、一般論として最善の対応は「相手に返信しない」です。
  もし、「××万円なら和解に応じる」「(金額を明示せず)和解に応じる用意がある」等の返信をすると、相手からさらなる連絡がくることが予想され、このような文書のやりとりが裁判官など第三者の目には、「当事者同士が和解交渉中」であるかのように映り、将来の訴訟において貴社に不利に働くおそれがあります。
  また、「現時点で和解するつもりはない」「要求には一切応じない」などの返信も、将来の訴訟等において不利に作用する可能性を完全に否定できないため、避けた方が無難です。
  なお、冒認出願者からの商標買い取りを要求する文書は、将来の審理・訴訟手続きにおいて悪意性の立証に用いることができますので、不都合なことばかりでもありません。
  そして、審理・訴訟における勝算や、登録取消が認められない(あるいは、冒認出願者が当該商標を所有し続ける)場合に予想される様々な影響、対応に要するコスト等を考慮し、「あえて冒認出願者から商標を買い取る」という選択肢があることも、実務においては否定できません。


<日本企業に降りかかった冒認出願事例>

最後に、近年日本企業が巻き込まれた冒認出願の事例を2件ご紹介いたします。

1.株式会社ニフコの事案

 株式会社ニフコは中国大陸の広範に渡る地域で90社に及ぶ顧客に対し、第20類で登録している「NIfCO」商標を付したプラスチック製バックル等を取り扱っていました。
 一方、現地A社は「NIfCO」商標と同一の商標を第26類で商標登録を受けました。
2003年9月、株式会社ニフコが現地A社の商標を取消す裁定を申し立てると、現地A社は株式会社ニフコの顧客に対して警告文を発する、株式会社ニフコへ最後通牒を突きつけるなどの行動に出ています。
 最終的に中国商標第31条を根拠として株式会社ニフコの訴えは認められますが、北京市高級人民法院の判決は2007年3月であり、解決までに3年半を要しました。

2.株式会社良品計画の事案

  株式会社良品計画は、日本や香港、いくつかの国で第25類(被服など)を指定する「無印良品MUJI」「MUJI」商標を登録していましたが、中国では登録していませんでした。
 一方、現地B社は中国で「無印良品」商標を第25類(被服など)における商標登録を受けました。
最終的に株式会社良品計画は現地B社の登録を取り消すことに成功しますが、この事案で注目すべきは、第一審と第二審とで、適用規定が異なったという点です。
 第一審は中国商標第41条第1項に定める「その他の不正な手段により登録を得ていた」行為を認定しています。
 ところが、第二審においてはより要件の厳しい中国商標第31条「既に使用しており一定の影響力を有する」を満たすとして、現地B社の登録を取り消す裁定を下しました。
 中国商標第31条「既に使用しており一定の影響力を有する」の要件満たすためには、「中国国内で」既に使用されていることが必要でした。
 しかし、第二審ではこの要件を、「他人の商標の市場における信望を盗用して不正競争を行う悪意が有りさえすれば十分であり、中国大陸における使用の有無は必須ではない」旨を判示しています。
 近年の中国商標実務に鑑みるに、中国商標第31条「既に使用しており一定の影響力を有する」の要件は緩和される傾向が見られますが、株式会社良品計画の事案が今後の標準とされるまでには、今しばらく時間を要するものと思われます。
 なお、この事案においても、解決までには相当の時間が掛っております。
 株式会社良品計画が現地B社の商標登録を取り消す申し立てをしたのは2000年5月で、北京市高級人民法院(第二審)の判決は2007年10月なので、実に7年以上の歳月を要しています。

 以上のように、冒認商標問題は「問題が起こる前の対処」が肝要になりますため、ぜひこの機会に中国への商標出願についてご一考いただければ幸いです。
 また、個別具体的にご相談のある場合は、問い合わせフォームより弊所にお問い合わせの上、あらためてお打ち合わせの日時などをご確認いただきますようお願い申し上げます(お電話やメールのみではお答えできない場合がありますことを予めご了承ください)。

(管理部・商標担当 滝口 正和)
参考文献:
  • JETRO北京センター知識産権部「中国商標権冒認出願マニュアル」 森・濱田松本法律事務所 弁護士 遠藤誠 著 
  • JETRO知的財産課「冒認出願対策リーフレット」 森・濱田松本法律事務所 弁護士 遠藤誠 監修
  • 財団法人経済産業調査会「東アジアの商標制度(I)」 三枝国際特許事務所 弁理士 中川博司 著