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中国特許事情2

中国特許事情

 
 

侮れない中国の実用新案権

1.はじめに

 中華人民共和国特許法(以下「中国特許法」という)第2条において、「発明とは,製品、方法又はその改良について出した新しい技術案をいう」と,実用新案とは「製品の形状,構造又はその組合せについて出された実用に適った新しい技術案をいう」と、意匠とは「製品の形状,図案又はそれらの組合せにより作りだされた美観に富み,かつ,工業面での応用に適した新しいデザインをいう」とそれぞれ定義されており、これら,発明,実用新案および意匠が一つの中国特許法に基づいて保護されており、その点わが国の法体系と顕著に異なります。
 また、発明は「発明特許権」,実用新案は「実用新案特許権」及び意匠は「意匠特許権」と称されており、その各特許権の存続期間は発明特許権の場合、出願日から20年、実用新案特許権及び意匠特許権の場合、出願日から10年です(中国特許法第42条)。
 また、発明特許権は審査請求制度、公開制度、審決不服裁判制度がありますが、実用新案特許権及び意匠特許権は方式審査のみの無審査制度ですから、早期権利化が可能です。
 実用新案特許権に基づいて争われた事件として「シュナイダー事件」があります。この事件は中国の正泰集団が保有する実用新案特許権を小型の電源ブレーカを製造しているフランスの「シュナイダー」が実用新案特許権を侵害したとして訴えられた事件で、訴訟合戦のうえ、50億円の損害賠償を命じられ、最終的には約20億円で解決しました。
 この事件を通じて中国でも実用新案特許権の存在が注目され、2011年度実用新案の出願件数は580,000件を越えました。
台湾も実用新案制度があり、無審査により実用新案特許権を取得することが可能ですが、この実用新案特許権の無効化に弊所は随分苦労しました。
中国,台湾等においては実用新案は無審査により権利が発生しますが,権利内容は発明特許権と同様です。

2.中国実用新案制度の特徴

 2−1 特実併願制度の採用について
中国特許法第9条第1項には「同一の発明創造に対しては1件の特許権にみを付与する。但し、同一の出願人が同日中に同一の発明創造について実用新案出願を出願したとともに、発明特許を出願した場合は、先に取得した実用新案権がまだ終了していない、かつ出願人が当該実用新案権の放棄を宣言したものは発明特許権を付与することができる」と規定されています。
 この、ただし書きの趣旨は、同一の出願人が同日に同一の発明創造について実用新案出願と特許出願の両方を行なっており、先に取得した実用新案権が消滅しておらず、かつ出願人が当該実用新案権を放棄するという意思表示を行った場合、特許権を付与することができるというものであります。

 2−2 この制度の適用を受けることにより、無審査により実用新案特許権として早期に権利化することができるとともに、その後は発明特許権として安定した権利を確保することができます。
この特実併願制度の適用を受けるためには、下記のような条件を要しますのでご留意ください
 1)権利化しようとする発明は、特許出願が可能であって、かつ実用新案出願が可能であること。
すなわち、この制度を利用する場合は、中国特許法に定める実用新案の保護対象にのみ限定されますので、方法の発明はこの制度を利用できません。
 2)特許出願と実用新案出願に係る技術的範囲の請求項の記載が同一であること。
すなわち、特実併願出願は同一の発明創造について、特許出願と実用新案出願の両方を同時に行なうことを前提としているからです。
 3)同一の出願人が同日に特許出願と実用新案出願を行なうこと。
これは出願人が20年以上の権利期間を得ることを未然に防止するためです。
 4)出願時にそれぞれが特実併願の旨の説明をすること。
具体的には願書の□欄にチェックを入れればすみます。
チェックの内容は「本出願人は同一の発明創造に対して、本実用新案出願を行なうのと同日に特許出願を行なうことを言明する」との意味です。
しかし、出願時にこの説明を行なわなかった場合は、特実併願制度の適用を受けることができません。
 5)先に取得した実用新案権が消滅していない場合にのみ、実用新案権を放棄することによって特許権を取得することができます。
したがって、出願人は特許が登録されるまで実用新案権の有効性を確保していなければならず、若し実用新案権を失った場合には、同一の発明について特許権を取得できないおそれがありますので、ご注意下さい。

 2−3 この制度を利用した場合のメリット
 1)この制度を利用して出願した場合、特許出願のみを出願した場合に比し、費用が若干高くなりますが、特許権を取得するまでの期間、実用新案権で保護が得られます。
 2)中国では特許権が確立するまで、裁判所に侵害訴訟を提起できませんが、実用新案権を取得しておれば権利行使を行なうことができ、また、この実用新案権は特許権と比較しても法的効果は同一です。
 3)特許出願がその後の審査において、特許性無しと判断された場合でも、実用新案権者において悪意があること、または遡及しないと明らかに公平の原則に違反することを証明する証拠が有る場合を除き、その審査結果は履行済みの実用新案権に基づく中国裁判所の判決や採決に対して、遡及効を有しない点にあります。
この特実併願制度はわが国ではない制度で、特許権を取得するまでの間有効に活用できますので、ご検討の価値があると思います。

3 実用新案特許権に対する無効化について

 中国において実用新案特許権を侵害された場合、当然ながら実用新案権者は差し止め、損害賠償等を求めて裁判所に対し訴訟を提起し、相手方は当該実用新案特許権の無効審判を請求し、当該実用新案権の無効化を図ります。
 しかし、中国において一旦実用新案特許権が発生すると、その無効化は大変困難です。
 その根拠は「無効宣告手続きにおける実用新案専利審査に関わる若干の規定4.実用新案専利の創造性の審査」において「実用新案専利の創造性の標準は発明専利の創造性標準より低いものである」と、また、「実用新案専利については、一般的に1つや2つの現有技術を引用してその創造性を評価することができる」、「単純に重ねている現有技術によりなされた実用新案専利の場合は、状況に応じ複数の現有技術を引用してその創造性を評価することができる」と規定されています。
 すなわち、中国において実用新案特許権を無効にしようとする場合、その提出する引用文献は原則2件以内であり、かつ、その判断基準は

A)公知技術の分野が類似しているかどうか、
B)公知技術に明確に示唆があるかどうか、

により判断されますが、その進歩性の判断基準は甘く、実用新案特許権を無効にすることは困難のようであり、実用新案特許権に基づく侵害排除は大変しやすいようです。
そのためか、中国における内国人による実用新案の出願件数は2011年において58万件、それに比しわが国の出願件数は僅か6千件に過ぎません。

4 実用新案権評価報告書について

 わが国では権利行使前には技術評価申請書を提出して、審査官に技術評価の報告書を作成して貰い、その評価報告書に基づいて権利行使することが義務付けされております。
 しかし、中国では評価書の提出義務や高度な注意義務に相当する規定は設けられていません。
 中国では「特許権侵害行為の訴訟提起停止に対する法律の適用に関する若干規定」には「出願人が提起した特許権侵害行為の訴訟前停止に関する請求について、実用新案に係るものは出願人は国務院専利行政部門が発行する実用新案権調査報告書を提出すべきである」と規定されています。 
 また、2009年10月1日に施行された「専利法(中国特許法)」第61条第2項には「特許権侵害の紛争が実用新案又は意匠特許に関わる場合、裁判所又は特許業務管理部門は、特許権者又は利害関係者に、国務院特許行政部門により作成された特許権評価報告書を提出するよう要求することができる」と規定されております。
 また、この実用新案権調査報告書又は実用新案権評価報告書は原告が実用新案権侵害訴訟を提起するときの必要要件ではなく、裁判所は実用新案権者又は利害関係者に対して、実用新案調査報告書又は実用新案評価報告書を提出するよう要求することはできますが、提出することを義務付けているわけではありません。
 判例では実用新案侵害訴訟を提起した原告に対し、対応する実用新案権報告書を提出しなかったケースもあります。
 すなわち、中国においては「裁判所は権利者に評価書の提出を要求することができる」と規定されているのみで、わが国のように権利行使前に評価書を提示しなければならない義務や権利が無効になった場合の損害賠償責任にいて何等規定されていません。

5 まとめ

 わが国と中国間では現在尖閣諸島を巡って政治・経済がギクシャクしておりますが、お互いに相互依存していることは明らかでありますから、冷静かつ賢明に対応していけばいずれ近いうちに必ず解決するものと私は確信しております。
 中国は既に特許大国と称されておりますが、実用新案制度には特実併願制度が採用され、早期権利化を可能とするとともに、その後は発明特許権として安定した権利を確保できます。
 また、無審査により実用新案権が発生すると、その実用新案権を無効化することは進歩性の判断基準が甘いこともあって、無効化は困難であり、かつ権利内容も特許権と同等であることに鑑みると、実用新案権を等閑視することはできません。
 更に、中国の実用新案制度においても、わが国の技術評価報告書に類似した報告制度がありますが、その報告書も特許権侵害事件を提起するときの必須要件ではなく、かつ当該実用新案権が無効になった場合にも権利者には何等損害賠償責任はありません。
 このような背景から中国の実用新案権は極めて使い勝手がよく、そのため出願件数が2011年度は58万件と急増しておりますが、わが国のメーカ初め取引関係者は決して中国の実用新案特許権を侮ってはならないと思います。

参考文献

  1. 中華人民共和国特許法(中国特許法)
  2. 財団法人 経済産業調査会発行
    平成24年10月2日・3日発行 特許ニュース
    中国における実用新案の作成から無効審判までの実務要領「上」「下」
    林達劉グループ
    北京林達劉知識産研研究所
    劉 新宇 李 茂家
    瀋 顕華 方 志? 胡 霊霊
  3. 特許庁HP 特許行政年次報告書 2012年版
  4. LINDAからのIPニュース
    中国弁理士  高 ?顕
    中国弁理士  劉 恋
  5. 中国の特許制度 ウィキペディア
  6. JCAジャーナル・第48巻10号:2001/10
    中国での特許権侵害に対する訴訟前差止めの規定
    弁護士 村上 幸隆 現代アジア法研究会会員
  7. 中国実用新案の脅威と活用
    弁理士   渡辺 秀治

 

(担当 弁理士 和田成則)