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中国特許事情

中国特許事情

 
 

中国の最近の知財訴訟について

1.はじめに

  中国は13億人の民を持つ国であり、2011年度の国民総生産(GDP)が我国を抜いて世界第2位となったこと及び中国が世界の生産国から消費国に変貌し、経済大国、特許大国となったことは皆さんよくご存知のことと思います。
弊所の場合、長年にわたり中国、台湾及び韓国等とは主に出願関係について取引関係を有しておりましたが、従来外国出願の対象国から米国を外すということはありませんでした。しかし、最近の例ですと、米国は外しても中国は外さない、という例がみられ、中国知財への関心度の高さが伺えます。
 中国の海賊版、模倣問題は特に米国、我国等からかねてから指摘されており、過日の中国イベントにおけるキャラクターも我国のものと酷似したキャラクターが堂々と使用されており、このことは未だ中国知財の後進性が伺えますが、今後の中国知財は世界ルールへの参加・協調という観点から海賊版、模倣問題も徐々に改善されてくるものと思います。
 弊所はかねてから中国、台湾、韓国等の東アジア諸国とは特許出願等を通じてと取引関係を有しておりますが、最近は出願関係のみならず、訴訟関係についての質問、問い合わせ等が増えつつあり、特に弊所では現在中国特許訴訟に一部首を突っ込んでいる関係上、中国特許制度および訴訟関係等の基本的事項について再度理解を深めたいとの観点から本稿を認めた次第であります。

2.中華人民共和国特許法について

  現在の中国特許制度は10年の文化大革命を経て、ケ小平が提唱した改革開放の基本国策に始まるとされており、この基本国策に基づき1984年3月12日開催された第6期全国人民代表大会常務委員会第4回会議で「中華人民共和国特許法(以下「中国特許法」という)が可決され、その中国特許法は1985年から施行されました。
 中国特許法の第2条には下記のように定義されております。

                          

第2条 本法でいう発明創造とは、発明、実用新案及び意匠をさす、と定義されているとともに、同条においてさらに発明、実用新案および意匠について定義されており、中国特許法では、発明、実用新案及び意匠の3種類が保護対象なっている点で我国法体制とは顕著に異なります。
 発明については発明特許権、実用新案については実用新案特許権及び意匠については意匠特許権と称されており、その各特許権の存続期間は発明特許権の存続期間は出願日から20年、実用新案特許権及び意匠特許権の存続期間は出願日から10年です(中国特許法第42条)。

 発明特許権は審査請求制度、公開制度、審決不服裁判制度があります。実用新案特許権と意匠特許権は方式審査のみの無審査制度であり、早期権利化が可能です。
 弊所での経験によると、中国に出願する場合、現地代理人は特許出願以外に実用新案を同時に出願することを勧めてくる場合があります。その理由は無審査制度のため早期権利化が可能であること、出願手数料が安いので町の発明家(個人)の出願が多く、企業名検索では引っかからないこと、中国語のみなので、PCT出願のような英語検索ができない、無効審判請求を起こしても、そのものずばりの証拠でなければなかなか崩せない、賠償金に制限がない、といわれており、中国の実用新案特許権を侮ることはできません。
 現地代理人に確認したところ実用新案特許権で保護される対象技術は中国特許法第2条に規定する技術でなければなければならないとのことですが、弊所で制御装置に用いられる制御回路が実用新案で保護されるか、どうか確認を求めたところ、制御回路は実用新案の対象となるとの回答を得ましたので、弊所は発明と実用新案の2件の出願を依頼しました。
 なお、出願対象が意匠に属するような場合には意匠特許権を取得するのも有効です。中国特許法に基づいて意匠特許権を取得する場合、当然ながら6面体の意匠図面を提出しなければなりません。しかし、仮に侵害事件が発生した場合、その意匠特許権がカタログ、パンフレット等に記載されているとしても、それらカタログ等には意匠特許権と同等の図面が開示されていることはなく、発明特許権及び実用新案特許権が仮に無効になったとしても意匠特許権に基づき侵害排除が可能とのことです。
 台湾で経験したことですが、台湾の実用新案制度も無審査制度ですが、弊所は台湾で取得した特許権に基づき裁判所に侵害排除及び損害賠償等を求めて事件を提起しました。事件は話し合いによりほぼ解決近くまで進行しましたが、相手方は突然実用新案を出願し、実用新案権を取得しました。相手方は実施している製品はこの実用新案権に基づいて製造・販売されているから侵害に属さない、と抗弁してきました。そのため当方としてはその実用新案権を無効化せざるを得ず、無効化に成功しました。裁判所は無効審決確定後、審理を再開して最終的には勝訴に近い和解で事件は解決しましたが、実用新案権の存在により事件解決が遅れ、多額の費用及び時間を要しました。
 中国特許法は従来新規性、進歩性の判断基準として国内公知を採用しておりましたが、2009年10月1日以降は世界公知が採用されることになり、中国特許法も徐々に世界レベルになってきました。

3.中国における最近の特許訴訟について

 中国における特許出願件数は年々増加傾向にあり、国家知的財産局は2009年度の特許出願件数は3種類(発明、実用新案、意匠)を含めて前年比18%の計97万7千件であること、そのうち発明特許出願件数は31万5000件で前年比9%増、国内の発明特許出願件数は再び過去最高となり、発明特許出願件数の全体の73%を占めたと伝えました。
 また、昨年1年間の特許取得件数は前年比41.2%増の58万2000件、うち発明特許取得件数は同37%増の12万8000件であり。発明特許を取得した出願のうち、国内の特許の割合が国外の特許を上まった、発表しました。
 また、全国知的財産権局の関連当局で937件の権利侵害紛争事件が審理された、と報じられました(人民報日本語版2010年2月2日)。
すなわち、中国では発明特許出願件数も対前年比で急増しており、うち国内の発明特許出願が国外の発明特許出願を上まったこと及び権利侵害紛争事件、つまり知財訴訟が増加傾向にあることは注目すべきことであります。
  2010年12月20日付け日本経済新聞朝刊によると、中国における知財訴訟増加の理由について「知財に対する現地の意識の高まりや裁判制度の整備により、知財訴訟が急増しているだけでなく、これまで現地企業を訴えてきた日本企業を相手取り、逆に中国企業が日本企業を訴えるケースが出てきた」、「先進国に比べて費用が安いこと。中国の法制に詳しい弁護士曽我貴志弁護士によると、弁護士費用を安く雇える地元企業の費用は1件あたり数十万程度で済む場合もある一方、外資系は翻訳費用などがかさむため、その10〜100倍に達する。外資系が多額の費用負担を嫌って、和解に応じることを狙った訴訟もみられるという」。また「訴訟の数だけでなく、質も上がってきた。中国は01年に世界貿易機関(WTO)に加盟して世界水準の知財インフラを求められたため、特許法や裁判制度を急ピッチで整えた」「裁判官のレベルも上がっており、先進的といえる判例がみられる(知財問題に詳しい山内信俊弁護士)、例えば、日本では特許侵害が認められると必ず差し止めが可能だが、中国では米国と同様に、差し止めの可否は公益への影響で決まるという」と報じられた。
 中国知財訴訟の一例を下記に紹介いたします。
 
(1)愛国者(aigo)ブランドで知られる中国のIT(情報技術)機器メーカー、北京華旗資訊碼科技は28日までに、東芝と米ヒューレットパッカード(HP)が自社の特許を侵害しているとして、北京などの裁判所に提訴した。
 ソニー 、米デル、韓国のサムスン電子も提訴する方針だという。
北京華旗の代理人弁護士によると、東芝とHPのノート型パソコンのUSB部品の技術に関して特許が侵害され、各社に100万元(約1300万円)の賠償を求めた。HP中国法人は「特許侵害の主張は間違いだ」と反論。東芝は「訴状を受け取っておらず、コメントできない」(中国法人広報)としている( 日本経済新聞 2010/4/28日)。
 また、中国からの報道によると、「愛国者/aigo」ブランドで知られる中国のIT企業、北京華旗資迅科技は4月26日、自社の特許権を侵害されたとして、米ヒューレットパッカード(HP)に対する特許権侵害訴訟を北京の人民法院(地裁に相当)に、東芝に対する訴訟を西安の人民法院に提訴した。
 「愛国者」側の関係者によると、2010年2月3日に登録されたUSBインターフェイスに関する特許に関して、デル、東芝、ソニー、HP、サムソン電子などに、権利侵害の停止を申しこんでいるが、HPとの協議、東芝との協議はうまくいかず、提訴に踏み切ったという。(知財情報局 IP−NEWS)。

(2)シュナイダー事件
 小型の電源ブレーカーを製造しているフランスのシュナイダーが実用新案特許権を侵害したとして正秦集団から訴えられた事件で、訴訟合戦の上、50億円の損害賠償を命じられ、最終的には約20億円で和解により解決した事件です。
 本件の特徴は無審査で特許になった実用新案特許権であることに注目すべきであり、たかが実用新案と舐めてかかると手痛いしっぺがえしをくうので発明特許権と同様に配慮しなければならない、ことを示唆しております(大連雑学時点 中国の特許裁判 実用新案を侮るな)。

(3)日本富士化水事件
 原告は中国企業である武官漢晶源環境工程有限公司、被告は日本富士化水工業株式会社(以下「富士化水」という)及び台湾の華陽電業有限公司(以下「華陽電業」という)で、原告の所有する発明特許権第95119389.9号について争われた特許権侵害事件であります。
 本件は富士化水が華陽電業に提供した脱硫装置及び脱硫方法が原告の所有する上記発明特許権の侵害か、どうかが争われた事件で、無効審判等を請求したが、無効の抗弁等が認められず、人民法院は司法鑑定の内容に基づき被告の行為は上記特許権の侵害と判断して、被告等の両者に対し共同で総額7億6千万円の支払いを命じました。
 被告等は最高人民法院に上告したが、最高人民法院は被告の主張を退け、人民法院の判決を維持し、本件事件はこの最高人民法院の判決により確定したものであります(パテント2010 Vol63 N04  中国特許権侵害訴訟の傾向と分析 河野 英仁著、 2010年12月20日付け日本経済新聞朝刊)

(4)計量器大手のタニタは今年(2010年)1月、中国の計量器メーカーと販売店が小型計量器のデザインを模倣したとして、2社に対し意匠権の侵害を主張して提訴。福建省の人民法院はタニタの主張を認め、2社に対し販売差止めと損害賠償6万元(約76万円)の支払いを命じた。
タニタは中国で、同様の意匠権侵害事件について毎年平均1〜2件程度提訴している。
(2010年12月20日付け 日本経済新聞朝刊)

4.まとめ

我国の特許出願件数、知財訴訟は近年減少傾向にあり、知財力の低下、産業競争力の低下が憂慮されております。しかし、資源のない我国にとって「もの作り」こそ国是であり、この「もの作り」を原点として、「技術立国」及び「貿易立国」の下、我国を再興すべきであります。
一方、中国の特許出願件数及び知財]訴訟は年々急増していることは前述の通りでありますが、我国企業が中国に進出するに際しては事前の調査、特許権の取得は不可欠であり、更に実用新案特許権及び意匠特許権の存在にも十分留意することが肝要かと思います。

 

(担当 弁理士 和田成則)