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先使用権援用事件-2


H17.4.28 名古屋地裁 平成16(ワ)1307 特許権 民事訴訟事件
 
【主な争点】

(1)先使用権の及ぶ範囲       (2)Yによる先使用権援用の可否

【判旨】
(1) 先使用権の及ぶ範囲について
 

先使用権を法が認めたのは、公平の見地から、特許出願の際に、その発明の実施である事業をしていたり、準備をしていた善意の者については、特許権が付与された後においても継続して実施する権利を認めるのが相当であると考えられたことによると解されている。

 

そうすると、先使用権を有している製造業者が、先使用権の範囲内の製品を製造して販売業者に販売し、この販売業者が同製品を販売(転売)するような場合においては、この販売業者について先使用権の発生要件の具備を問うまでもなく、この販売業者は製造業者の有する先使用権を援用することができると解するのが相当である。

 

何故なら、そのように考えないと、販売業者が製造業者から同製品を購入することが事実上困難となり、ひいては先使用権者たる製造業者の利益保護も不十分となって、公平の見地から先使用権を認めた趣旨が没却されるからである。

 

もっとも、先使用権者たる製造業者の利益保護のためには、販売業者による同製品の販売行為が特許権の侵害にならないという効果を与えれば足りるのであって、製造業者が先使用権を有しているという一事をもって、販売業者にも製造業者と同一の先使用権を認めるのは、販売業者に過大な権利を与えるものとして、これもまた、先使用権制度の趣旨に反することが明らかである。

 

以上より、は先使用権を援用可能であるが、が製造した製品を販売する、あるいは使用することまでが、援用できる先使用権の業務範囲である。

(2) Yによる先使用権援用の可否について
 

上記の通り、が先行品を製造・販売したことにより先使用権を取得していても、あるいはは、が製造する製品を販売することが本件特許権の侵害にならないことを主張できるにとどまり、自らかかる製品の製造あるいは製造の発注を行うことまでも正当化できるものではない。従って、による先使用権の援用は許されないと解すべきである。

 
【コメント】

本事案においては、先使用権者Aと被告Yの間にBが介在しており、事件が複雑化している。被告は裁判において、「Aの先使用権を援用したBの権利の援用」を主張していると言え、結局、Bの援用できる先使用権の範囲はどこまでかが問題となっている。

本事案を翻って考えてみると、特許法第79条で利益保護を図っているのは、先使用権者のみであり、先使用権の援用者の利益保護は図っておらず、この援用者の利益保護は言うなれば間接的に図られているのである。

すなわち、先使用権者に製造・販売出来る権利を法が与えたとしても、この製品を先使用権者から購入した者が販売することが出来なければ、公平の見地から考えて先使用権者の利益保護が不十分であるばかりか、物が市場を転々流通する行為を法が阻害することにもなり、特許法の目的たる産業の発達をも阻害することにもなる。

従って、先使用権の発生要件の具備を問うまでもなく、先使用権者が製造した物を販売・使用する者に対し、先使用権の援用を認める必要がある。しかしその一方、先使用権の援用を認めるのは、上記のように先使用権者の保護が不十分となるから、あるいは産業の発達を阻害するからであるので、援用者に対し過大に権利を付与すると、特許権者の利益保護が不十分となり、先使用権と特許権との権利関係のバランスが崩れてしまうことにもなる。

以上のように、先使用権の援用が認められるとしても、先使用権者の援用者は、あくまでも先使用権の間接的な利益保護から認められるものであることを認識しておく必要があると言える。

担当(弁理士 茅原 裕二
 
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