本事件は、前回紹介した「使い捨てカメラ事件」と同様、主に特許は「消尽」したか否か、被告の行為は「再生産」に該当するか否かについて争われた事件です。具体的には、原告は、インクジェットプリンターに使用するインクタンクに関し、液体収納容器、液体収納容器の製造法方法の特許権を有していました。被告は、使用済みのインクタンク本体を収集し、この本体内の洗浄、及びこの本体にインク注入のための穴を開けてインクを再充填したものを中国から輸入して我が国で販売していました。 東京地裁では、前記「使い捨てカメラ事件」とは異なり、特許権は消尽している、被告の行為は再生産には該当しないとして特許権侵害を構成しないと判断しました。
私見ですが、裁判官は、「物の寿命をメーカー側に自由自在に操作させることは、社会全体の利益を害するものであり不合理である」と判断したものと思います。 すなわち、本事件においては、空のインクタンクは、インクさえ再充填すればまだまだ使用出来る状態であり、また、そのような構造とすることは当業者において容易である。にもかかわらず、メーカー側はそのような構造とせず、消費者に対し、まだまだ再利用可能なインクタンクを廃棄させ、再び自社の新しいインクタンクを購入せざるを得ない状況を作り出すものである。よって、特許権侵害を認めるとしたならば、メーカー側に物の寿命の操作権を自由自在に与えることになり、その結果、リサイクルの促進を図れず、廃棄物の大量発生を誘発することになる。 従って、本事件においては、メーカー側がリサイクル可能な物品のリサイクルを怠っており、特許権侵害を認めるとしたならば、リサイクルの促進を図れず社会全体に与える不利益は大きいので、よって、社会全体の利益を考えると特許権侵害を認めないとするのが妥当である、と裁判官は判断したものと思います。