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巨峰事件


H14.12.12 大阪地裁 平成13(ワ)9153 商標権 民事訴訟事件
 
【概要】

原告は、指定商品「葡萄、その種子、乾葡萄」、商標「巨峰」からなる商標権(第472182号)の専用使用権者であり、一方、被告は、紙の加工、紙及び紙加工品の販売等を業とするものであり、「巨峰」の文字を表示したぶどう出荷用包装資材を製造、販売していました。
原告は、被告の当該行為が商標権の侵害行為に該当すると主張するのに対し、被告は、登録商標の「巨峰」の語は、ぶどうの一品種を表す普通名称であると反論致しました。
主な争点は、@「巨峰」という語は、ぶどうの一品種である本件品種のぶどうを表す普通名称(商標法第26条第1項第2号)に当たるか A被告標章は、普通名称を「普通に用いられる方法」(商標法第26条第1項第2号)で表示するものか という2点でした。
被告が「巨峰」というのは、ぶどうの一品種を示す普通名称であると反論するのに対し、原告は、本件品種を表す普通名称は「巨峰」ではなく「石原センテ」である旨を種々の証拠資料を基に主張致しました。
これに対し、裁判所は、「巨峰」という語は、特定の業者の商品にのみ用いられるべき商標であると認識されておらず、ぶどうの一品種である本件品種のぶどうを表す一般的な名称として認識されているものと認められる。従って、「巨峰」という語は、ぶどうの一品種である本件品種のぶどうを表す普通名称(商標法第26条第1項第2号)に当たると認めるのが相当であり、よって、被告の当該行為は商標権侵害行為に該当しないと判断しました。


【コメント】

商標法においては、指定商品に登録商標を付する行為、付して販売する行為は商標権侵害に該当しますが(商標法第2条第3項各号)、一方、形式的には商標権侵害行為に該当する行為であっても、商標権侵害行為に当たらないと法は規定しています(商標法第26条第1項各号)。本件においては、この中の1つの行為である「普通名称を普通に用いられる方法で使用する行為」(商標法第26条第1項第2号)に当該被告の行為が当たるか否かが最大の争点となりました。
結論としては、上記のように、「巨峰」はぶどうの一品種を示す普通名称だと判断され、商標権侵害に該当しないとされましたが、この「普通名称」であるか否かを安易に判断すると商標権侵害となる可能性が多分にありますので、以下の2点に注意するのがよいと思います。

  (1) 登録商標が「普通名称」となっているか否かの判断は慎重に行うこと
   

 本事件においては、商標権者の登録商標の管理が十分とは言えず、「巨峰」なる登録商標が普通名称化してしまったと判断されましたが、例えば、一般消費者が通称として単に用いていたと言うだけでは、普通名称化したとは必ずしも言えません。普通名称化したか否かはあくまでも特定業者間の認識によるものなので、安易に判断して登録された他人の商標を使用すると商標権侵害となる可能性が十分あります。

  (2) 「普通名称」化した登録商標の使用行為が非侵害行為とは限らないこと
   

 「普通名称」化した登録商標があったとしても、当該登録商標の使用行為は商標権侵害に当たらないとは必ずしも言えません。当該登録商標を使用する行為が商標権侵害に当たらないのは、あくまで、普通名称化した登録商標を、その商品に普通名称として使用する場合です。例えば、指定商品「Tシャツ」、登録商標「Tシャツ」なる他人の商標権があった場合に、Tシャツを販売するに際して「Tシャツ」なる文字を商品が「Tシャツ」であることを表示するために使用するのであれば、商標権侵害に当たりません。一方、例えば、「Tシャツ」なる文字を襟ぐりのタグに大きく表示した場合には、「Tシャツ」なる文字を商標として使用したと判断され、商標権侵害に当たる蓋然性は極めて高いものとなります。


担当(弁理士 茅原 裕二
 
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