本件判決は審判段階で非類似商標と判断された特許庁審決を、知財高裁で類似商標と判断されて、特許庁審決を覆した事件です。
平成25年1月17日 口頭弁論期日 平成25年1月31日 判決言渡
平成24年(行ケ)第10334号 審決取消請求事件(PDF/194Kb)
<弊所コメント>
商標法第4条第1項第11号には、「当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であって、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務又はこれに類似する商品若しくは役務について使用するもの」は商標登録を受けることができない、と規定されています。 すなわち、この条文は商標の先願主義を規定したものであって、登録商標と同一若しくは類似商標が後から出願された場合、後から出願された商標登録を認めない、という規定です。
したがって、商標出願を依頼された場合、事務所としては依頼された商標と同一若しくは類似する商標が先願として登録あるいは出願されているや、否やに付いて出願前調査を行うことが一般的でありますが、依頼された商標と登録商標の類比判断について、いずれとも明確に判断しかねるケースがあります。
商標類比判断の基準として、両商標を比較して外観、観念及び称呼のいずれか一つでも類似している場合は類似商標と判断されるという判例がほぼ確立されておりますが、最高裁判例では観念、称呼が類似していても外観形状が著しくことなる場合は非類似商標と判断された判決もあります。 つまり、同一の商標か、否かは容易に判断されますが、正確な類比判断は弁理士をもってしても事案によって異なる場合もあり、難解であることをご了承願いたいと思います。実務上特許庁の判断は審査基準をベースとして判断されますが、裁判所の判断は実体経済等を考慮して判断されることもありますので、その点からも判断に苦慮することがあります。
本件事案は弊所が代理人として関わった事件ですが、本件登録商標第5378262号(以下「本件商標」という)は原告の所有する商標登録第4849984号、同第4166104号、同第4849985号及び同4166103号に類似するので、商標法第4条第11号に該当し、本件商標を無効とする、との審決を求めて特許庁に無効審判を請求しました。 しかし、特許における審決においては、本件商標の語頭の「B」の文字は図案化したものであって、本件商標からは欧文字「B」を表わすとは認められず、本件商標からは「eams」あるいは「イームス」の称呼のみを生じ、本件商標から「BEAMS」「ビームス」なる称呼は生じ得ないとして、本件商標は商標法第4条第11号に該当せず、と判断され、本件審判の請求は成り立たない、との審決を受けました。
弊所としてはこの審決に承服できず、この審決の取消を求めて「知的財産高等裁判所(以下「知財高裁」という」に控訴した次第であります。 知財高裁においては、本件商標について、本件図形部分と文字部分(「eams」)との配置関係や本件図形部分の構成及び配色に照らすと、本件図形部分は、当該文字部分と一連一体となって、「BEAMS」という英単語を書き表すために、欧文字である「B」の文字を図案化したものであるとみることもできる」と判示して、本件商標は商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものであるから、特許庁の審決を取消す、と判示したものであります。 また、この判決は平成25年2月15日をもって確定しました。 なお、この判決においては直接触れてはいませんが、原告代理人は被告ホームページを証拠(甲第6号証〜甲第8号証)として提出し、このホームページにおいて被告は「BEAMS」「ビームス」と称呼されて取引の具に供されている、と主張しましたが、この主張も裁判官の心証形成に影響を与えたかも知れません。
注 注目すべき判例について従来判決の要旨部分を抽出・要約して弊所コメントを加えておりましたが、判例23からは事実関係を明確にするため判決全文を掲載して弊所コメントを加えました。ご了承下さい。