きずな国際特許事務所

重要判例
スタッフ紹介
中国知財関連
事務所のご案内 スタッフのご紹介 知財研究 お問い合わせ
  TOP知財研究トップ重要判例 >ヘルプボタン事件

ヘルプボタン事件


H17.2.1 東京地裁 平成16(ワ)16732 特許権 民事訴訟事件
 
【概要】

言わずと知れた事件であり、ジャストシステム(被告)のワープロソフト「一太郎」とグラフィックソフトの「花子」が、松下電器産業(原告)の特許権(特許第2803236号)を侵害しているとして争われた事件です。
主な争点は、「被告製品をインストールしたパソコンに表示される「ヘルプモード」ボタン及び「印刷」ボタンは、本件構成要件にいう「アイコン」に該当するか」という点です。
具体的には、「アイコン」とは、(1)「ドラッグ」ないし「移動」が出来るもの、(2)「デスクトップ上」に配置されるもの、であるか否かが最大の争点であり、「アイコン」が上記(1)ないし(2)のいずれか1つの要件でも必須要件とすると裁判所が判断した場合には、非侵害となるものでありました。
これに対し、裁判所の判断は、(1)明細書、図面の記載からすると、「アイコン」について、移動可能であるものに限定して解釈することは出来ない。(2)明細書、図面の記載からすると、「ウインドウタイトル」というウインドウ内に表示されるものが「アイコン」とされているから、本件発明における「アイコン」がデスクトップ上に配置可能であるものが必要とは言えない。及び出願当時における各種刊行物等から「アイコン」の意義を解釈すると、「アイコン」が、「移動」ないし「ドラッグ」出来るものである、ことや「デスクトップ上」に配置されるものである、と断定することは出来ない。よって、上記(1)、(2)はいずれも「アイコン」を構成する必須要件ではないと判断し、特許権侵害を構成するとしました。

【コメント】

特許権侵害訴訟においては、上記のように、特許請求の範囲に記載された、たった1つの言葉の解釈が争点となることが多々あります。例えば、実施された製品同士を見比べた場合、「アイコン」と「ヘルプモードボタン」は、一見すると異なるもののように見えますが、特許権侵害を考える場合には、実施された製品同士を見比べるのではなく、特許権の請求の範囲、すなわち、特許権の権利範囲を確定する書類である特許請求の範囲に文字によって記載されたものと、被告製品を特定するイ号物件(こちらも実際の製品自体ではありません)との対比になります。
従いまして、競合他社が実施する製品と見た目が異なる物を作れば特許権侵害に当たらないと判断するのは非常に危険です。新たに製品を製造する場合には、競合他社が所有する特許権を調査し、新たに製造する製品が特許権侵害に該当するか否かをきちんと検討致しましょう。


担当(弁理士 茅原 裕二
 
戻る 次へ