きずな国際特許事務所

重要判例
スタッフ紹介
中国知財関連
事務所のご案内 スタッフのご紹介 知財研究 お問い合わせ
  TOP知財研究トップ重要判例

「ROKI事件」

判例29 「ROKI事件」

引用商標の商標権者が破産した場合、当該商標権者の有している引用商標権には後願排除の効果を有しない、と判示

   平成22年6月9日   口頭弁論終結日
   平成22年7月21日  判決言渡

pdfファイル平成21年(行ケ)第10396号 審決取消請求事件(商標)(PDF/107KB)

<弊所コメント>

  1. 商標法も、特許法等と同様に先願主義が採用されており、同一あるいは類似の商標、発明等が出願された場合、先に出願した方に商標権あるいは特許権等が付与されます。
     商標法第4条第1項第11号には「当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であって、その登録商標に係る指定商品若しくは指定役務・・・使用するもの」と規定され、この規定により出願された商標と同一若しくは類似する商標が他人により先に登録されていた場合、この先に登録された商標権には後願排除の効果があり、後願出願の登録を拒絶するようになっております。

  2. 実務上、商標出願を行なう場合、原則として事前調査の上出願致しますが、それでも出願商標と同一若しくは類似商標が1件若しくは複数件引用され、この出願商標はこれら引用商標と同一若しくは類似の登録商標として、商標法第4条第1項第11号該当するとして、拒絶理由通知を受けることがあります。
     なお、商標の類似、非類似の判断は両商標の外観、観念及び称呼により判断されますが、通説としては外観、観念及び称呼のうち、いずれか1つでも同一あるいは類似の場合、特許庁は類似商標に該当するとして、当該出願商標の登録を拒絶致します。
     しかし、その拒絶査定に対し、不服申し立て審判を請求することができますが、その審判段階で拒絶審決を受けた場合、更に知財高裁に審決取消訴訟を提起することができます。
     本件事件は知財高裁に拒絶審決の取消を求めた裁判で、知財高裁で特許庁の審決が取り消された事件です。

  3. 本件事件は出願商標に対し、2件の引用商標が引用され、内1件の引用商標と出願商標とは非類似商標と判断し、他の引用商標(以下「引用商標2」という)について知財高裁が実体的に判断した点に大きな特徴があります。
     すなわち、引用商標2の商標権者は東京地裁から破産手続開始決定をうけ、東京地裁の破産手続終結決定が確定し、同社は登記簿上閉鎖されました。
     その点について、特許庁は商標法第4条第1項第11号に規定する「他人の登録商標」とは、後願の同一又は類似商標の査定時又は審決時において有効に存続していれば足り、現実に使用されていることを必要とするものではない」と主張しました。つまり、特許庁は査定又は審決時に引用商標2が商標権者の存続如何に関わらず、登録商標が現実に有効に存続しておれば、後願排除が可能である、と主張しました。
     その主張に対し、知財高裁は引用商標2の商標権者は本願商標の出願登録前に破産手続終結集結決定が確定しており、当該商標権の存続期間満了日までの間、引用商標2がその正当な権利者(商標権者又はこれから使用許諾を受けた者)によって現実に使用される可能性は極めて低いものと認められものであるから、引用商標2と本願商標との間で商品の出所について混同を生ずるおそれはなく、非類似の商標の商標であるから、本願商標は商標法第4条第1項第11号に該当しない、と判示したものであります。
     すなわち、引用商標の商標権者が破産した場合、その商標権者が有していた商標権には後願排除の効果を認めなかったのであります。

  4. 出願商標に対し引用商標が引用され、出願商標は商標法第4条第1項第11号に該当するので、商標登録を認めない旨の拒絶理由通知を受けるケースが多数ありますが、弊所においても、本件事件と類似したケースが最近発生しました。
     弊所において、引用商標の商標権者について調査・確認したところ、引用商標の商標権者は現在既に破産しており、同社の登記簿が閉鎖されていることが判明しましたが、このケースは本件事件と類似性があるように思われ、大変参考になる判決です。
     実務上商標出願した場合、商標法第4条第1項第11号の適用を受けて拒絶されるケースが多く、その際の対応策として、非類似を主張する、指定商品又は指定役務を減縮して抵触関係を除く、あるいは引用商標に対して不使用取消審判請求を請求して引用商標を取消す、等の手段がありますが、その他に本件事件のように引用商標の商標権者の経営状態をチェツクする必要があると思います。
     なお、私の経験上特許庁は法律及び審査基準等に従い、形式的に判断する傾向にありますが、裁判所は現実を直視して実体的に判断する傾向にあると思われます。

(担当 弁理士  和田 成則)

注 注目すべき判例について従来判決の要旨部分を抽出・要約して弊所コメントを加えておりましたが、判例23からは事実関係を明確にするため判決全文を掲載して弊所コメントを加えました。ご了承下さい。

戻る 戻る つぎへ 次へ