本件は士業の事務所名称の使用行為が商標権侵害かどうか争われ、侵害と認められた珍しいケースです。
士業の皆さんご注意下さい。
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結合商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の構成部分から出所識別標識としての称呼、観念を生じないと認められる場合などには、当該構成部分の一部を要部として取り出し、これと他人の商標とを対比して商標の類比を判断されることは許される、と認定して、判決は両商標の要部が類似しているとして商標権侵害を認めたものであります
なお、原告、被告とも役務の内容については争いがない。
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取引の実情等について、被告らは業務内容は債務整理業務に限られ、その活動地域は関東及び甲信越地方に集中していているのに対し、原告法人の業務内容は債務整理ではない登記を中心とする一般の司法書士としての業務であり、その活動範囲は京都を中心とするものであって、両者の業務内容及び活動地域に明瞭な相違がある、と主張しました。
しかし、判決は業務内容及び活動地域に相違があっても商標の類比判断においては影響がない、と認定し、商標権侵害と認定しました。
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損害額の算定について、原告法人の司法業務と被告らの司法書士業務とは、活動の地域的範囲において全く重なり合わないものとはいえず、その限度が限られてはいるものの、一定の競合関係が認められる、として原告らの損害賠償請求を一部認めました。
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我々弁理士、弁護士、司法書士さん等の士業業務は従来法人化が認められていかったため個人氏名を事務所名称としてきましたが、そのような場合には商標権侵害という問題は生じませんでした(商標法第26条)。
しかし、法人化が認められるようになってから、また法人化の有無に関わらず最近事務所名称を抽象名詞とする例が多くなってきました。
本件事件は士業の事務所名称を抽象名詞としたことによって提起されたものですが、特に事業規模が拡大して業務法人化し、事務所名称を抽象化した場合には、商標権を取得し、安心して業務が遂行できるよう十分注意する必要があると思います。
士業の皆さん、事務所名称を抽象名詞で使用しようとする場合などには、法人化の有無に関わらず商標権の取得をお奨め致します。
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