きずな国際特許事務所

重要判例
スタッフ紹介
中国知財関連
事務所のご案内 スタッフのご紹介 知財研究 お問い合わせ
  TOP知財研究トップ重要判例

サトウの切り餅事件


判例22 サトウの切り餅事件 〜 知財高裁判決・損害賠償14億8,500万円を請求

 
 
 
平成23年9月7日 判決言渡
 
平成23年(ネ)第10002号 特許権侵害差止等請求事件
 
(原審 東京地方裁判所  平成21年(ワ)第7718号)
 
控訴人 越後製菓株式会社(原審原告)
 
被控訴人 佐藤食品工業株式会社(原審被告)
 

1.事件の概要

   

 本件は「サトウの切り餅」でおなじみの切り餅に対し、越後製菓鰍ェ自社の所有する特許第4111382号(以下「本件特許権」といいます)を侵害するとして、佐藤食品工業鰍ノ対し侵害差止等を求めて東京地方裁判所に事件を提起したものです。
 東京地方裁判所では、被告の主張が認められ、サトウの切り餅は本件特許権の技術的範囲に属さない、として原告である越後製菓鰍フ主張を棄却しました。
 その判決に越後製菓鰍ヘ承服できず、知的財産高等裁判所(以下「知財高裁」といいます)に控訴し、この度の知財高裁の判決となった次第ですが、知財高裁は東京地方裁判所の判決を覆し逆転判決を言渡しました。
 この判決が逆転判決であること、餅という商品が消費者になじみの商品であることおよび損害賠償請求金額が14億8500万円という高額であることから注目されております。
 この事件おける最大の争点は本件特許権の構成要件Bの「載置底面又は平坦上面ではなく・・・・側周表面」の解釈でありますが、知財高裁は「載置底面又は平坦上面ではなく」との記載は、「側周表面」であることを明確にするための記載であり、載置底面又は平坦表面に切り込み溝又は溝部(以下「切り込み部等」という)を設けることを除外するための記載ではない、と判示した点にあります。
 それに対し、東京地方裁判所は構成要件Bの記載について「載置底面又は平坦上面」には切り込み溝を設けず、との解釈について、「上側表面の立直側面である側周表面」に切り込み溝等を設けることを意味するもの、と解するのが相当であると判示し、サトウの切り餅は本件特許権の技術的範囲に属さないと判断したものであります。
 すなわち、この度の判決は切り溝等の位置の解釈について、東京地方裁判所と知財高裁の判断が真っ向から異なる点に特徴があり、そのために知財高裁において逆転判決となった次第であります。

【弊所コメント】

   
  1. 裁判所が特許権侵害事件を審理する場合、先ず対象商品が技術的範囲に属するや、否やの「侵害論」について判断しますが、本件の知財高裁の判決はこの「侵害論」に基づく中間判決です。対象商品が侵害と判断された場合には、次に「損害論」に進みます。この「損害論」は損害額の算定および差し止め請求の範囲等について審理され、最終的な判決が出ます。
  2. 知財高裁において、控訴人(原審原告)は均等論を主張して侵害であると主張しておりましたが、知財高裁はその均等論には言及せず、専ら文言論、すなわち特許請求の範囲の文言解釈によって技術的範囲の解釈を行っております。
     特に特許請求の範囲に記載されている構成要件Bの「載置底面又は平坦上面ではなく」の解釈について、「載置底面又は平坦上面を除外するものではない」と上記のように拡大解釈をしています。
     この知財高裁の文言解釈については、私としては疑問を有するものですが、本件特許発明が今までにない画期的な発明だとすればその拡大解釈は可能かと思いますが、本件特許発明と類似した先行技術があったとすれば、このような拡大解釈は許されなかったものと思います。
  3. 特許権侵害事件においては、特許出願前の先行技術が大変重要な要素になります。原告・被告とも攻撃・防御の手段として無効審判を請求します。原告サイドにおいても特許発明が無効化に耐えられるかどうか、事件提起前に調査を致しますが、外国文献にまで調査することは経費等の関係もあってなかなかできません。弊所でも最近経験したことですが、侵害事件提起前に国内文献については調査をしましたが、外国文献には及ばず、しかし事件提起後被告から外国文献を証拠として提示されました。
     しかし、その証拠が有力なものであったため、残念ながら私どもの主張は認められず敗訴にいたりました。
     特許権侵害事件を裁判所で争う場合は証拠次第です。有力な証拠を発見できれば勝訴の確率が高くなり、そうでないと低くなります。
    事件の成否は証拠次第であることをご理解下さい。
担当(弁理士 和田 成則
 
戻る 戻る つぎへ 次へ