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特許法第112条の2第1項に基づく特許権の回復請求事件


判例21 特許法第112条の2第1項に基づく特許権の回復請求事件

 
 
 
事件番号 平成19(行ウ)第56号
 
事件名 特許権納付書却下処分取消請求事件
 
裁判年月日 平成19年17月5日判決
 
法廷名 東京地方裁判所
 
結果 棄却
 

1.事件の概要

     本件は原告が、特許法第112条の2第1項「その責めに帰することができない理由」のため、第5年分特許料を追納期間内に納付できなかったとして、その追納を求めたが却下されたため、処分の取消しを請求し、特許権の回復を求めた事件である。
  すなわち、原告は、本件特許権の管理を訴外C事務所に委託していたが、C事務所から納付期限等の通知が来なかったため、特許料納付期間及び追納期間を徒過してしまった。原告は「管理会社の選任監督に社会通念上相の注意を払った場合には、特許権者がなすべきことをなした」として、「その責めに帰することができない理由」に該当し、本条により救済されるべきである、と主張した。
しかし、本件判決は、「本来自らなすべき特許権の管理を、自らの判断と責任において第3者に委託したのであるから、原告が本件特許権の管理を委任していたC事務所の過失は原告の過失と同視できる」として、本条項にいう「その責めに帰することができない理由」による不納には該当しない、と判示して、原告の請求を棄却した。

2.事件の争点と判示

   

(1)特許法第112条お2第1項には「その責めに帰することができない理由」がある場合には特許料及び割増特許料の追納があったときは特許権が回復する旨の規定がある。その責めに帰することができない理由として、特許庁の解釈によれば

1)天災地変のような客観的な理由にもとづいて手続きをすることができない場合、2)通常の注意力を有する当事者が万全の注意を払ってもなお請求期間を徒過せざるを得なかったような場合は、主観的な理由による場合であってもその責めに帰することができない場合に含まれる、としている。

(2)原告は、「責めに帰することができない理由」として下記の3点を主張した。

1)特許法第112条の2第1項における「その責めに帰することができない理由」について、原告は「当事者が社会通念上相当の注意を払っても避けることができなかった事情の存在と解釈すべき」である。
2)原告は本件特許権の特許管理をC事務所に委託していたものの、C事務所が特許料を支払うか否かについて原告の意思を確認するリマインダーを所定の時期に送付せず、追認期間の末日の約1週間前に本件特許ファミリーの一部(本件特許権は含まれていなかった)についてリマインダーを送付したにとどまり、原告は追納期間にも特許料の納付ができなかった。
3)特許管理を信頼性の高い外部組織に委ねる趨勢に照らせば、外部組織の選任監督に社会通念上相当の注意を払っている場合には、仮に外部組織の事情により事故が生じたとしても、特許権者は社会通念上相当の注意を払ったものであるから、「その責めに帰することができない理由」がある、と主張した。

(3)それに対し、裁判所は次のように判示した。
1)について、通常の注意力を有する当事者が万全の注意を払ってもなお追納期間内に納付することができなかった場合を意味するものである、と認定し、この条項は例外中の例外であるため厳格に解釈すべきこと、他の方条の同一文言の解釈と整合性を図る必要がある。
2)について、本来特許権の実質的権利者である原告は、本来自らなすべき特許権の管理を、自らの責任と判断において当該外部組織に委託して行わせたものであるから、原告が本件特許権の管理を委託していたC事務所の過失は原告の過失と同視でき、万全の注意を払っていても特許料等を納付できなかったとはいえず、「その責めに帰することができない理由がない」ことは明らかであるとして、原告の過失を認定した。
3)について、たとえ信頼性の高い外部組織に特許管理を委ねた場合であっても、本来自らなすべき特許権の管理を、自らの責任と判断において、当該外部組織に委託して行わせたものであるから、当該外部組織の過失は特許権者側の事情として、原告の過失と同視するのが相当であって、原告の主張は採用できない、と認定した。
すなわち、本件事件について裁判所は特許法第112条の2第1項の解釈にあたり、この規定は例外中の例外を規定するものであるから厳格に解釈すべきであること及び外部組織に特許管理を委託したとしても、外部組織への委託は自己の責任と判断に基づいてなされものであると認定し、自己責任を厳しく追及した判決である。

【弊所コメント】

   
  1. 本件判決は特許法第112条の2第1項の適用について厳しく解釈したものであるが、私は公平の原則から見ても妥当と思料する。
  2. 私ども特許事務所は日常業務として、本件のような年金管理、審査請求期限の管理、商標更新期限の管理、意見書・補正書提出期限、審判請求事件の期限管理等、多くの管理業務があるが、その管理業務をおろそかにしていると、本件のような特許権の喪失あるいは出願維持の喪失等につながり、事務所責任者としては非常に気を使うところである。
    そのため、弊所は弁理士職業賠償責任保険に加入して万全を期している。
  3. 仄聞するところによると、中堅企業の特許責任者が事務所に管理を委任することなく、会社単独で年金管理を行っていたが、管理不十分のため一度に会社保有の特許権を大量に喪失したという話を聞いたことがあり、そのためその特許責任者は責任を採ったということである。
    弊所では一部の特許権者とは年金管理について事務所とダブル管理を行っており、特許権の喪失を可及的に防止している。しかし、大企業の場合その管理業務を外部組織に委託しているケースがあるが、外部委託したことにより自己責任を免れることはできませんので、万全の注意を払うようご留意下さい。

【参考文献】

   
  1. 特許庁編 工業所有権法逐条解説 第13版 249〜261頁
  2. 吉藤幸朔著 熊谷健一補訂 特許法概説  第13版 538〜540頁
  3. 日本知的財産協会発行 2008 9 知財管理 若松陽子著 特許権の回復

 
担当(弁理士 和田 成則
 
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