原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。
原告は平成4年9月29日「シャディ」の文字を横書きしてなり、役務区分の42類「多数の商品を掲載したカタログを不特定多数人に頒布し、家庭にいながら商品選択の機会を与えるサービス」を指定役務とする商標を出願したが、拒絶査定、原告は平成7年11月2日拒絶査定不服審判を特許庁に請求したが、平成11年10月4日「本件審判の請求は成り立たない」との審決、その審決に対し東京高等裁判所に審決取り消しを求めたものである。
原告は消費者に対し、各種ブランドが付された種々の雑貨品を中心とするギフト用品をカタログを媒として紹介する会社であり、そのカタログの表紙に「シャディ」という標章を付している。
原告は家庭にいながら贈答品等の商品を選択、購入する機会を与える販売サービスに関して対価を得ているのであり、その意味で商標法第2条1項にいう「商品を・・・譲渡」、又は同法第2条1項2号の「業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用するもの」と解すべきである。
本件カタログは一般消費者に貸与又は無償で頒布しているのであって、カタログ自体が商品としての価値を有しているものではないが、本件カタログは原告の一連の便益(役務)の提供に当たり、その提供を受ける者の利用に供する物(商標法2条3項4号)に該当するものと言うべきである。
その他原告は国際的調和の観点から種々しているが、その点は省略する。
原告主張の便益については、対価が支払われておらず、原告の受領しているのは商品の対価であって、その取引は通常の商品販売と異なるところがない。
原告がいう「家庭にいながら商品を選択する機会を与えるサービス」という便益は、個別の商品を販売するための一手段ないしは商品販売促進のための工夫というべきであって、最終消費者たる顧客は原告の便益自体に対して対価を支払うものではない。
原告主張のサービスが商標法上の役務に当たるというためには、当該サービスが商品の小売とは独立した取引の対象となっていることを要し、当該サービスに対する対価が商品に対する対価とは別個に存在しなければならない。
その他国際的調和の観点からも反論されたが、その点は省略する。
商標法にいう「役務」とは、他人のためにする労務又は便益であって、付随的でなく独立して市場において取引の対象となり得るものと解すべきであり、他方で、例えば、商品の譲渡に伴い、付随的に行なわれるサービスは、それ自体のみに着目すれば、他人のためにする労務または便益に当たるとしても、市場において独立した取引の対象となっていると認められない限り、商標法にいう「役務」には該当しない。
顧客は、原告の提供するカタログによるサービスを積極的に利用するとしても、、原告に支払うのは、商品代金のみであり、サービスに対する対価としての支払いは存在しない。
原告が商品の価格に実質的にサービス費用等を上乗せしているとしても、それは他の販売促進が採用された場合にその費用等が上乗せされる場合と何等異なるものではなく、原告のサービスは独立して取引の対象となっているわけではない。
よって、原告の本件カタログによるサービス業務は、商品の売買に伴い、付随的に行なわれる労務又は便益にすぎず、商法法にいう「役務」に該当しない、と認定して原告の主張を退けたものである。
国際的調和の観点からも裁判所は判断しているが、その点は省略する。
この判決は通常「シャディ事件」と称されているが、その他「ESPRIT事件(平成11年(行ケ)第390号)」と並んで、これら判例がこの度の商標法改正に大きな影響を与えた。
勿論この度の法改正に当たっては、これら判決のみならず国際的調和の観点からも改正されたものである。
現行商標法の下において、「シャディ事件」のような「カタログ販売行為」は、そのサービス行為自体は独立して取引の対象となるものではないから、裁判所の判断は相当と認められものであるが、そのような「カタログ販売行為」を保護の対象としようとするならば、立法によって保護するしかないものと判断せざるを得ない。
そのような観点から、この度の商標法においては、商標法第2条第2項が下記のように改正された。
「第2条 2 前項第二号の役務には、小売及び卸売の業務において行なわれる顧客に対する便益の提供が含まれるものとする」。
この結果、従来独立して取引の対象とは認められなかった「シャディ事件」のような「カタログ販売」行為についても商標法の保護対象となった。
条文上は上記のように「顧客に対する便益の提供行為」が役務商標として認められるようになった結果、例えば、店舗屋上あるいは店舗玄関に設置された看板等に標章を付する行為、包装紙や買い物袋等に標章を付する行為、インタネット等の販売行為について、ディスプレイに標章を付する行為、新聞広告、チラシ広告、車内の吊り広告等に標章を付する行為等が商標法で保護されるようになった。
この度の商標法改正は小売業者、卸売業者にとって重要な事項を含んでいるが、特に貴社が現在使用している「ハウスブランド」が使用できなくなる恐れがあるので、充分注意すべきである。
この商標法は2007年4月1日から施行されるが、4月1日から6月30日までの期間は特例期間として先後願等の審査は行なわれないので、特例期間中に出願することをお勧め致します。