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インクカートリッジ再生品の特許権侵害訴訟


平成16年(ワ)第26092号 特許権侵害差止請求事件
 
【事案の書誌的事項】
 
第一審 (東京地裁)
 
平成18年10月18日 判決
 
原告(負け…)  セイコーエプソン株式会社
 
被告(勝ち!)  株式会社エコリカ
 
裁判長 清水 節
 
【事案の概要】
   
  • 原告は、家庭用プリンターのインクカートリッジに関する特許(第3257597号:以下「本件特許」という)を有する、プリンターインクカートリッジの大手製造販売会社です。

  • 被告は、プリンターインクカートリッジの再生品を製造販売する、リサイクル業の大手です。

  • 本事案は、被告の販売する被告製品が原告の特許を侵害しているとして、原告が被告に対して被告製品の販売差止及び損害賠償等を請求した事件です。

【主な争点】
   
  1. 原告特許は、特許無効審判により無効にされるべきものか(原告のした分割出願が適法なもので、出願日が遡及するか否か)。*1

  2. そして、分割出願が適法なものと認められない(出願日が遡及しない)場合、原告のした分割出願の発明が新規性又は進歩性を欠くか。

【地裁決定の要旨】
   
   

新たな特許出願(分割出願)がもとの特許出願(原出願)の時にしたものとみなされる、出願日の遡及が認められるためには、分割出願に係る発明がその原出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであるか、同明細書等に記載した事項から自明な事項であることを要すると言わなければならない。

そして、原告のした分割出願の特許請求の範囲には、原出願の特許請求の範囲に記載されていた「インク取り出し口の外縁をフィルムより外側に突出している」構成が削除されている。

そして、原出願の当初発明本来の目的を達成させるためには、この「インク取り出し口の外縁をフィルムより外側に突出している」構成が不可欠のものであるとともに、インク取り出し口の外縁をフィルムより外側に突出していない構成を採用することは一切記載されてなく、その示唆もない。

また、「インク取り出し口の外縁をフィルムより外側に突出している」構成を採用しないことが自明の事項であると認めることもできない。

そうすると、本件分割出願は平成6年法律第116号改正特許法44条1項の分割要件を満たしていると認められず、出願日の遡及は認められない。

そして、分割出願した日(平成12年12月21日)より以前に公開された刊行物(特開平4‐257452号公報)に記載された発明は、本件分割出願の発明と同一である。

したがって、本件特許は新規性を欠くものといわなければならず、特許無効審判により無効にされるべきものである。

 
【弊所コメント】
(1)  

プリンターメーカにとって、リサイクル商品は大きな収益源であることは事実であり、その点から原告は本件事件を提起したことは間違いない。
通常侵害事件が提起された場合、裁判所は「侵害論」、つまり、侵害しているや、否やの判断の後、「損害賠償論」、つまり、その侵害事件によって、どの程度の損害を蒙っかを判断するものであるが、本件事件は「損害賠償論」を論ずるまでも無く、特許権は無効と判断したもので、いわば、門前払いの判決である。その点特許の有効性について争わなかった「キヤノン事件」(弊所ホームページ重要判例10参照)とは事件の争点が異なる。

 (2)  

適法な分割出願であれば、その出願日は元の親出願の日に出願したものと看做され、出願日は遡及するものであるが、裁判所は本件事件において、分割出願は分割要件を満たしていないと認定、その結果分割出願の日は実際に分割出願した日と認め、新規性、進歩性を否認したものである。

(3)  

特許出願の分割は我々弁理士がよく行なう手続の一であるが、その際最も注意しなければならないことは、新規事項の追加であるか、どうかの判断である。しかし、新規事項の追加であるか、どうかは実務上中々難しい判断であって、かつ特許庁の審査は段々厳しくなっているように思われ、原告は本件判決に対し控訴するものと思われる。

 
 
 

*1…細かな争点は色々ありますが、本事案の最も重要な争点は「出願日が遡及するか否か」という点に集約されます。

担当(弁理士 和田 成則
 
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