きずな国際特許事務所

重要判例
スタッフ紹介
中国知財関連
事務所のご案内 スタッフのご紹介 知財研究 お問い合わせ
  TOP知財研究トップ重要判例 >廉価版DVDの製造販売差止事件

廉価版DVDの製造販売差止事件


平成18年(ヨ)第22044号 著作権仮処分命令申立事件
 
【事案の書誌的事項】
 
第一審 (東京地裁)
 
平成18年07月11日 決定
 
平成18年(ヨ)第22044号 著作権仮処分命令申立事件
 
債権者(負け…)  米国法人パラマウント ピクチャーズ コーポレーション
 
債務者(勝ち!)  株式会社ファースト トレーディング
 
裁判長 高部 眞規子
 
物件目録
1「ローマの休日(以下「本件映画1」という)」と題する映画のDVD商品
2「第十七捕虜収容所(以下「本件映画2」という)」と題する映画のDVD商品
【事案の概要】
   

債権者は映画の制作及び配給等を主たる事業とする米国法人であり、債務者は保護期間の満了した映画のDVD商品の製造販売を主たる事業とする株式会社です。
債権者は本件映画1及び本件映画2(これら2つをもって以下「本件映画」という)を制作して、1953年(昭和28年)米国において最初に公表し、著作権登録しました。
債務者は本件映画を複製したDVD商品を平成17年10月頃から日本国内において製造販売していました。

   

本事案は、債権者が債務者に対して本件映画の著作権に基づき、債務者の本件映画を複製したDVD商品の製造頒布行為につき著作権侵害(複製権及び頒布権の侵害)を理由として差止め等を求める仮処分事件です。


【争点】
   

本件映画の著作権の保護期間について、平成15年12月31日午後12時の経過によって50年の保護期間が満了すべきところ、平成16年01月01日午前零時施行の改正著作権法が適用されるか否か。


【地裁決定の要旨】
   

著作権法第57条1項及び第57条の規定は「年によって期間を定めた」ものであるから、本件映画の保護期間の満了を把握する基本的な単位は「時間」ではなく、「日」となるべきである。

   

とすると、著作権の存否を「年によって期間を定め」、「末日」の終了をもって満了することを前提とする限り、本件映画については平成15年12月31日に著作権が満了しており、平成16年01月01日まで著作権が存続していたということはできない。
なお、著作権侵害が損害賠償の対象となるのみならず、刑事罰の対象となることをも併せ考えれば、改正法の適用の有無は文理上明確でなければならず、著作権者の保護のみを強調することは妥当ではない。


【参照条文】
    ベルヌ条約5条(2) (保護が要求される同盟国)
    ベルヌ条約7条(8) (同盟国の映画の保護期間)
    著作権法6条3号 (保護を受ける著作物)
    著作権法54条第1項 (映画の著作物の保護期間)
    著作権法57条 (保護期間の計算方法)
    改正著作権法附則1条 (改正法の施行)
    改正著作権法附則2条 (映画の著作物の保護期間に関する経過措置)
    民法139条 (期間の起算点:時)
    民法140条 (期間の起算点:日)
    民法141条 (期間の満了点)
【弊所コメント】
   

ややもすると著作権を過剰に保護しがちな昨今にあって、著作権法の条文を厳密に解釈した、冷静かつ妥当な判断をした決定との印象を強く受けます。
本事案の決定では「前日の午後12時」と「翌日の午前零時」とが、同一時刻であることを認定しています。

しかしながら、「(中略)〜その時刻を平成15年12月31日午後12時ととらえれば本件映画の著作権は存しているということができても、この時刻を平成16年01月01日零時ととらえる以上、本件映画の著作権は消滅したものといわざるを得ない。」として、あくまでも著作権の権利保護期間計算の概念は、法律の文理解釈上「時間」ではなくて「日にち」であるとも認定しています。

   

この点が、文化庁の「同時刻なのだから、権利消滅の翌日午前零時にも権利は存続している」旨の強引な解釈と比べ、合理的で筋が通っています。
そもそも著作権法とは「文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作権者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与することを目的とする(著作権法第1条)」と規定するように、知的な創造活動を促進してより高度な創造に向けた意欲を与える(著作物の保護)一方、その成果を活用(著作物の利用)して社会を発展させるための法であって、決して著作権者に恒久的な利潤をもたらすための法ではありません。

著作権とは、その利用と保護とのバランスが考慮されなくてはならず、どちらか一方に偏った制度運用をしても、著作権法の法目的は達成されないでしょう。
本事案の決定を受けて、何故映画の著作物については70年間もの長期にわたり保護する必要があるのか、という著作権の本質的な問題は依然として残されているものの、弊所は今後も本事案の経過を注視していきます。

なお、結果的には、文化庁の解釈を鵜呑みにしてしまった債権者に落ち度があったとは思えないのですが、今後はメイキングやオーディオコメンタリ等の付加価値を高めた商品で廉価版商品に対抗するなどして、常に企業努力を続けて公正な競争をし、経済の健全な発展に寄与することを債権者には期待します。


【参考文献及び参考サイト】
 
日本経済新聞 平成18年07月12日(水) 第14版 社会38面
毎日MSNニュース
(http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/gakugei/news/20060712k0000m040067000c.html)
フジサンケイビジネス@
(http://www.business-i.jp/news/sou-page/news/200607120042a.nwc)
東京新聞chunichi Web press
(http://www.tokyo-np.co.jp/00/sya/20060712/mng_____sya_____008.shtml)
産経新聞 Sankei Web
(http://www.sankei.co.jp/news/060711/sha069.htm)
日経ネット
(http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20060711AT1G1102X11072006.html)
裁判所ホームページ 知的財産判例集
(http://www.courts.go.jp/search/jhsp0010? action_id=first&hanreiSrchKbn=07)
担当(弁理士 和田 成則
 
戻る 次へ