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天理教豊文教会事件-1 最高裁判決


H18年1月20日判決(平成16年(受)第575号)名称使用差止等請求事件
 
【概要】 (争点)
   

本案は主に宗教法人の「営業」の定義及び「名称使用」について争われた事件である。


(事件の当事者)

   

上告人(原告・被控訴人)   宗教法人天理教

    被上告人(被告・控訴人)   宗教法人天理教豊文教会
【判決主文】
    本件上告を棄却する。
    上告費用は上告人の負担とする。

【判決要旨】
 (1)  

不正競争防止法2条1項、2号にいう「営業」は、宗教法人の本来的な宗教活動及 びこれと密接不可分に関係にある事業を含まない。

 (2)  

宗教法人による「天理教豊文教会」との名称の使用が、「天理教」との名称の宗教法人の名称を冒用されない権利を侵害するものとはいえず、その差止め請求は認められない、として、上告人(宗教法人天理教)の請求が棄却された。

【事件の概要】
 (1)  

上告人は、中山みきを教祖とする天理教の教義に基づく宗教活動を行なう宗教法人である。
上告人の目的はその規則において、「親神天理王命の思召す世界一れつ陽気ぐらしを実現する教義をひろめ、儀式行事を行い、信者を教化育成し、教会を包括し、その他この宗教団体に目的を達成するための業務及び事業を行なうこと」にあるとされている。

上告人が包括する教会は、教会本部と一般教会とに分けられ、一般教会の数は16,000を超え、その名称は、「天理教・・・大教会」又は「天理教・・・分教会」と定められている。
上告人の名称は周知である。

 
 (2)  

被上告人の前身は天理教豊文宣教所であったが、その後「天理教豊文分教会」に改められた。
被上告人の代表者Aは、上告人の教義は、教祖である中山みきの教えとは異なったものであるように考えるようになり、被上告人における礼拝所の施設や儀式の方法について、天理教教会本部の作成した天理教経典に定めに従わない方針を採るようになった。

これに対し、上告人は天理教教典に沿った活動をするように指示したが、Aはこれに反発し、被上告人において、被包括関係を廃止する旨の通知書を平成13年7月3日付けにて上告人に送付するとともに、平成15年4月16日、被包括関係の廃止に伴う規則の変更につき長野県知事の認証を受け、被上告人の名称は「天理教豊文教会」に変更された。

変更後の規則は「教祖と仰ぐ中山みきの一れつ陽気づくめ世界を実現するとの本義に基づき・・・」と定められているとともに、教祖の教えに基づき宗教活動を行なっている。

なお、被上告人は現在収益事業を行なっておらず、近い将来これを行なう予定はない。


【争点に対する最高裁判断】
 
 (1)  
営業活動について
(ア)  

不正競争防止法第1条の目的は、事業者間の公正に競争及びこれに関連する国際約束の的確な実施を確保するため、不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ、もって国民経済の健全な発展に寄与することにある、と認定。

(イ)

不正競争防止法は営業の自由の保障の下で自由競争が行なわれる取引社会を前提に、経済活動を行なう事業者間の競争が自由競争の範囲を逸脱して濫用的に行なわれ、あるいは社会全体の公正な競争秩序を排除するものである場合に、これを不正競争として防止しようとするものにほかならない、と解され、かつ、そもそも取引社会における事業活動と評価することができないようなものについてまで、同法による規律が及ぶものではない、と認定。

(ウ)  

これを宗教法人の活動についてみるに、宗教儀礼の執行や教義の普及伝道活動等の本来的な宗教活動に関しては、営業の自由の保障の下で自由競争が行なわれる取引社会を前提とするものではなく、不正競争防止法の対象とする競争秩序の維持を観念することはできないものであるから、取引社会における事業活動と評価することはできず、同法の適用の対象外であると解するのが相当である、認定。

(エ)  

「営業」の意義は取引社会における競争関係を前提とするものであり、従って「営業」は宗教法人の本来的な宗教活動及びこれと密接不可分の関係にある事業を含まないと解するのが相当である。

   

被上告人の行なっている朝夕の勤行、月次例祭等の年中行事などの本来的な宗教活動にとどまっており、被上告人は現在収益活動を行なっておらず、上記名称「天理教豊文教会」は、不正競争防止法2条1項1号、2号にいう「商品等表示」に当るとはいえず、上記名称を使用する被上告人の行為は同各号所定の不正競争には当らない、と判示した。

 
 (2)  
名称使用について
(ア)  

宗教法人も人格的利益を有しており、宗教法人は他の宗教法人等に冒用されない権利を有し、これを違法に侵害されたときは、加害者に対し、侵害行為の差止めを求めることができる。

(イ)

しかしながら、宗教法人はその名称に係る人格的利益の一内容として、名称を自由に選定し、使用する自由(以下「名称使用の自由」という)を有するものと言うべきであり、宗教法人においては、その教義を簡潔に示す語が使用されることが多いが、これは宗教法人がその教義によって他の宗教の宗教法人と識別される性格を有するからであって、そのような名称を使用する合理性、必然性を認めることができ、従って、宗教法人の名称使用の自由には、その教義を簡潔に示す語を冠した名称を使用することも含まれる、とすべきである。

(ウ)  

これを本件についてみると、上告人の「天理教」の名称が周知であることは認められる。

   

しかし、被上告人は宗教法人法に基づく宗教法人となってから約50年にわたり「天理教豊文分教会」の名称で宗教活動を行なっており、その前身の「天理教豊文宣教所」を含めれば約80年にもわたって「天理教」の名称を使用していること、被上告人は中山みきを教祖と仰ぎ、その教えを記した教典に基づいて宗教活動を行なう宗教団体であること、その信奉する教義は「天理教」にほかならないこと、被上告人において上告人の名称の周知性を殊更に利用しようとする不正な目的をうかがわせる事情もないことから、被上告人がその教義を示す「天理教」の語を冠したことには相当性があり、被上告人がその名称を使用できなくなった場合にはその不利益は重大である。

   

その点で上告人が「天理教」の語を含む名称を独占することができなくなったとしても宗教法人の性格上やむを得ない面があると認めざるを得ない、としてこの最高裁判決となったものである。

 
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