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不正競争防止法第2条第1項に規定する特定不正競争は我々弁理士の業務範囲に属する行為であって、一弁理士としてこの判決には重大な関心があります。 |
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この事件は一審では上告人(宗教法人天理教)が勝ち、高裁及び最高裁で一審が逆転した事件であり、事件としては難解なものです。 |
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不正競争防止法に規定する「営業」活動の定義に関しては、従来から多くの判例が
あります。
例えば、「単に営利を目的とする場合のみならず、広く経済上収支計算の上に立って行わるべき事業をも含む」、「広く経済的対価を得ることを目的とする事業を指し、予備校の経営や慈善事業等をも含む」と広く解釈されていました。 |
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本件事案においても、第一審の東京地裁では、「宗教法人の業務及び事業はいずれも広く経済上その収支計算の上に立って行なわれるものということができ、よって、宗教法人の業務ないし事業についても、不正競争防止法を適用することができ、宗教法人であることの一事をもって同法が適用されないということはできない」と認定されておりました。 |
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しかし、控訴審及び上告審では、 |
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概略(ア)信者の提供する金品も、寄付の性格を有するものであって、宗教活動と対価関係に立つ給付ではない。
(イ)宗教活動はこれと対価関係に立つ給付を信者等から受け、それらを収入源とする経済収支上の計算に基づいて行なわれる活動ではない。
(ウ)宗教活動について競争を観念することができても、それは、当該宗教法人の布教を通じての信者の拡大や教義の宗教的・哲学的な深化の程度といった市場経済と関わりのない分野であって、市場経済の下における顧客獲得上の競争ないしこれに類する競争ではなく、不正競争防止法が公正の理念に基づいて規制しようとする競争には当らない。
(エ)宗教法人の宗教活動は不正競争防止法上の各規定にいう「事業」または「営業」には該当しない、と判示し、「営業」の定義に関して従来判例に比し極めて狭く解釈した画期的判決ではないかと思います。 |
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しかし、この判決は被上告人が駐車場等の収益事業を行なっていないことを前提としてなされたように思われますが、仮に収益事業を行なっていた場合には、この判決とは異なる結果が出たのではないかと思いますが、如何でしょうか。 |
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判決において、上告人、被上告人の名称が極めて類似性のあることを認めた上、「天理教」の語を含む名称を上告人が独占できなくなったとしても、宗教法人の性格上やむを得ない、と判示したことは、両者が「中山みき」を教祖としている以上当然かと思います。従って、教祖を異にしている場合には異なった判断がでたものと思います。 |
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いずれにしても、この最高裁判断は両者の宗教活動を真摯にとらえた勇気ある画期的判決で、私ども弁理士としても従来例にとらわれない価値判断をなすべきではないかと反省させられた事件です。 |
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