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 業績好調も、商標問題にアタマを悩ませるApple


コラム

業績好調も、商標問題にアタマを悩ませるApple

● 世界に名立たる大企業 ●

 Apple社(米国・カリフォルニア)の業績が好調です。  
 今年一月に同社が発表した2011年10月〜12月期の業績において、売上高は463億3,000万ドル(3兆6,137億4,000万円)、純利益も130億6,000万ドル(1兆186億8,000万円)に達し、いずれも過去最高を記録しました。*1  
 さらに、Apple社は前年同期比111%販売台数増の「iPad」を1543万台、同26%販売台数増の「Mac」を520万台販売し、ヒューレットパッカード(米国・カリフォルニア)やDELL(米国・テキサス)などが苦戦する中、PC市場においてトップシェアを獲得しています。*2
 快進撃を続けるIT業界の雄、Apple社ですが、このような大企業であっても、たった一つの商標権の取扱いを誤ってしまうことで、そのビジネスに多大な影響を与えかねません。 このコラムでは、Apple社が直面する商標問題の事例をご紹介します。

● Apple社の抱える商標問題 ●

 Apple社は、iPhone、Mac、iPad、iPodなどの商品を世界各国で展開しています。  
 同時に、今やビジネスを円滑に進める上で必須となる商標権の取得も行ってきましたが、いくつかの国においては、必要な商標権を取得できませんでした。  
 例えば、我が国において、Apple社はiPhoneについての商標権を取得できず、アイホン株式会社(愛知県・名古屋市)の所有する商標権に係る使用許諾を得て、ビジネスを展開しています。
 そして、Apple社は、その主力商品の一つであるiPadについて、現時点で中国本土における有効な権利を取得できておらず、今日、中国において商品の販売停止やiPad輸出入禁止の危機に直面しているものです。

● 「iPad商標問題」の当事者及び事案の経緯 ●

 iPadを巡る商標問題に係る主な当事者は、以下の通りです。

 −Apple陣営−

  • Apple社−英国IPAD社を通じ、ワールドワイドに「iPad」商標権を取得したと主張。
  • IPAD社−Apple社の設立した会社で、唯冠電子(台湾)から複数の国における「iPad」
    商標権を買い取る。

 −唯冠グループ陣営−

  • 唯冠国際(香港)−Proview International Holdings社。中国IT機器大手。
  • 唯冠科技(深せん(土へんに川))−Proview Technology社。唯冠国際(香港)の関連子会社。中国本土における「iPad」商標権所有を主張。現在経営難で、中国国営銀行大手
    が債権者。
  • 唯冠電子(台湾)−Proview Electronics社。唯冠国際(香港)の関連子会社。台湾での「iPad」商標権者であり、複数の国と地域における「iPad」商標権の売買契約をIPAD社と結ぶ。

 そして、「唯冠電子(台湾)は、唯冠技研(深せん)の所有する商標権を売買できる立場の者だったか」という点が「iPad」商標問題の核となっており、今日に至るまでの事案の経緯は次の通りです。*3

  • 2000年  −唯冠電子(台湾)が複数の国と地域で「iPad」商標を登録。
  • 2001年  −唯冠技研(深せん)が中国本土での「iPad」商標を登録。
  • 2006年  −Apple社がiPadの開発を開始。
  • 2006年  −IPAD社は、唯冠電子(台湾)と「iPad」商標権の売買契約を55,000ドル
    (440万円)で結び、その商標権をApple社に10ポンド(1500円)で譲渡。
  • 2010年  −Apple社が中国本土に進出、唯冠技研(深せん)と「iPad」商標を巡って紛争が生じる。
  • 2010年4月−Apple社が、中国における自社の商標権所有を主張する旨の訴えを提起。
  • 2011年初頭−唯冠技研(深せん)が自社の商標権をApple社に侵害されたとして、北京市西城工商分局に対し苦情を申し立て、西城工商分局はこれについてApple社に2億4000万元(約28億8,000円)の罰金を認定。(Appleが異議を申し立てたため、現時点では罰金の徴収が延期されている。)
  • 2011年12月−広東省深せん市中級法院第一審裁判所は、Apple社の主張を認めず、「Apple社がIPAD社を通じて『iPad』商標権を譲り受けた唯冠電子(台湾)は、内地商標権を持つ唯冠科技(深せん)の『代理者』には当たらず、唯冠電子(台湾)には内地の『iPad』商標権を売買する権利はない」としてApple社の請求を全て棄却、さらに約45,000元(約55万円)の訴訟費用をApple社側に負担させる判決を言い渡す。
  • 2012年1月−先の判決を不服とし、Apple社は広東省高級人民法院(高裁)に上告をする。
  • 2012年2月−唯冠技研(深せん)が、Apple社のiPadについて輸出入を禁止するよう、中国税関に対して申請する。現時点でこの申請は認められていない。
  • 2012年2月−唯冠技研(深せん)が、「不公正な商慣習と虚偽行為」を理由に、米国においてApple社を訴える。
  • 2012年2月−唯冠技研(深せん)が、Apple社の広東省恵州市におけるiPad販売差止を訴え、恵州市中級人民法院がそれを認める。唯冠技研(深せん)は、他の中国40都市 でも同様の販売差し止めを求めている。
     また、小売店やショッピングサイトの一部では、iPadの取扱いや展示を止めるところが出始める。
  • 2012年2月−唯冠技研(深せん)が訴えていた上海におけるiPad販売差止について、上海市浦東新区人民法院は、訴えを退け、審理を打ち切る。
     これは、「iPad」商標権がどちらに属するのかの広東省高級人民法院(高裁)の判断が出る前に、iPad販売差止命令を出すことはできない、との理由から。

● 両者の言い分 ●

 −商標権の帰属について−

  • Apple社「当社がIPAD社を通じて取得した『iPad』商標権は、ワールドワイドのものであり、中国本土における権利をも所有している。」
  • 唯冠技研(深せん)「中国本土における『iPad』商標権は、我々が所有している。」

 −唯冠電子(台湾)とIPAD社との売買契約について−

  • Apple社「契約は有効であり、中国本土でも履行されるべきだ。」
  • 唯冠技研(深せん)「唯冠電子(台湾)は唯冠国際(香港)の一子会社に過ぎず、我々の所有する商標権を売買する権限はない。また、唯冠国際(香港)は、唯冠電子(台湾)が中国本土の商標権を売買するとしたこの取引を、承認していない。
     さらに、Apple社はIPAD社の素性を隠して商標権を不当に安く買い、権利取得の理由を明らかにせず取引にあたったのは、不誠実である。」

● 今後の展開 ●

 2011年12月、中国における自社の商標権所有を主張するApple社の訴えは全て棄却されたことから、今後、Apple社にとっては厳しい結果が展開される可能性があり得ます。
 また、唯冠技研(深せん)はiPadの輸出入差し止めをも求めており、もしそれが認められると、iPadは世界規模で流通に影響が出かねません(現在iPadは中国で製造されているため)。
 そして、広東省高級人民法院(高裁)の審理において、商標権が唯冠技研(深せん)に帰属すると確定した場合、Apple社は以下の手段を取ることが考えられます。

 

  1. 唯冠技研(深せん)と和解し、商標権の譲渡若しくはライセンス許諾契約を結び、中国において「iPad」商標を使用する。ただし、和解金は莫大な額(少なくとも、唯冠技研(深せん)の要求する100億元(16億ドル)以上)になることが予想される。
  2. 唯冠技研(深せん)とは和解せず、中国市場では「iPad」以外の商標を使用し、ビジネスを展開する。その際、今までに唯冠技研(深せん)の商標権を侵害した分の損害賠償及び罰金の支払いをしなくてはならない。

 今後、どのような展開になるかは広東省高級人民法院(高裁)の審理結果に左右されますが、業績好調で潤沢な現金(967億ドル)を保有するApple社にとって、和解の選択肢は十分視野に入れている可能性があります。

● 本事案の教訓 ●

 Apple社がiPadの開発を始めたのは2006年であり、唯冠電子(台湾)は2000年に、唯冠技研(深せん)は2001年に「iPad」商標権を取得しているため、「Apple社が相手より先に商標を出願していれば」という問題ではありません。
 一つ指摘できるのは、Apple社はデュー・デリジェンス(対象企業に対する資産の調査活動)が不足していた可能性がある、という点です。
 例えば、唯冠電子(台湾)とIPAD社との売買契約について、中国本土での商標権を本当に相手が所有しているのか、所有してはいなくとも、相手はその権利について契約できる立場にあるのかなど、徹底的な調査をすることで明らかできた点はあったはずです。
 そして、本事案のような事例は、規模や程度の差こそあれどこの国や地域であっても起こりうるものですので、これを対岸の火事とすることなく、ビジネスを円滑に進めていくためには、入念な下準備と細心の注意を払って交渉等に臨むことが求められると言えます。

● おわりに ●

昨今の米中関係や、実施された際の影響の大きさに鑑みるに、唯冠技研(深せん)が求める「iPad」の輸出入禁止措置は、可能性としてはあまり高くないのではないか、と思います(仮に、唯冠技研(深せん)へ商標権が帰属したとしても)。
 しかしながら、スキマ時間にiPod Classicで音楽を聴いたり、外国語の勉強をしたりするAppleの一ユーザとしては、今後の展開については大変気になります。

*1−当時(2012年01月24日)のレート 1$=¥78.00として計算。
*2−2011年10月〜12月期におけるPC市場(総出荷台数1億2,000万台)における17%のトップシェア。
*3−事案の経緯について、年度や金額については複数の報道が発表されている(例えば、唯冠電子(台湾)とIPAD社が売買契約したのは「2006年」や「2009年」などの報道がある)。

参考文献及び参考サイト:リンクが切れている可能性がありますので、ご了承ください。
・「パテントサロン iPad 商標紛争」http://www.patentsalon.com/topics/ipad/index.html