この小説は私どもが日常扱っている特許権をテーマとしたもので、弁理士のほか知財関係者の方も多く読まれているものと思います。
主人公である佃航平は宇宙科学開発機構の研究員でロケット打ち上げ失敗の責任を取って退職し、退職後父親の経営していた佃製作所を引き継ぐ。佃製作所は精密機械製造業、資本金3,000万円、売上げ100億規模の研究開発型中小企業であるが、エンジン関連および水素エンジンのバルブシステムについて特許権を取得しているとともに、それら技術について大企業をしのぐ特許権とノウハウを有している。
しかし会社の経営状態は火の車で、その矢先に京浜マシナリーからの下請け仕事のキャンセルが入った。同社は佃製作所の主要取引先で売り上げの10%を占めており、佃製作所の赤字は必至である。
佃製作所はメイン銀行に融資依頼に行くが、銀行は「研究開発を止めない限り融資はしない」と回答。
物語はこのような状態のもとで進んでいくが、事件は大企業であるナカシマ工業との特許権侵害事件および帝国重工との特許権交渉にまたがるので、分りやすくするため、二つに分けて物語を進める。
ナカシマ工業から佃製作所の開発した最新型エンジン「ステラ」がナカシマ工業の開発したエンジンの模倣と断定し、特許権侵害を理由に販売差止めと90億円の損害賠償を求めてきた。
更に、京葉平和エンジニアリングからステラのチャンセルが入った。
佃製作所は侵害事件の代理人として、弁理士でもある神谷弁護士に依頼。
神谷弁護士は検討の結果、ナカシマ工業はこの事件を通じて佃製作所をナカシマの傘下に入れ、同時に佃の技術をナカシマが手に入れるのが目的と判断。
神谷弁護士は佃製作所の有する特許権にもとづいて、ナカシマ工業の主力エンジン「エルマーU」に対して特許権侵害で販売差止めと損害賠償70億円を請求。
裁判所は「原告佃製作所の主張する特許侵害は、ほぼ全面的に認められる。被告(ナカシマ)代理人からは膨大な証拠が提出されているが、そのどれもが原告の主張を覆すだけの論拠をもっているとはいえない」として、56億円の和解案を裁判所が原告・被告に提示。
このナカシマ工業は裁判所の和解勧告により、ナカシマ工業が56億円を佃製作所に支払うことにより解決した。
なお、ナカシマ工業の事件担当者は控訴、上告を主張したが、ナカシマ工業の代理人は和解を受けた方が会社のためになると説得し、事件は解決した。